投資家の皆様へ

アナリスト対談

(2015年8月19日 掲載)
繁村氏
2014年4月の調剤報酬改定の内容は、2025年問題(団塊の世代が75歳以上になり、医療費・介護費の急増が懸念されている問題)への対策として厚生労働省が推進する“地域包括ケアシステム”の構築を目指したものとなりましたね。具体的には、単純な大病院門前調剤薬局モデルからの脱却、在宅医療への積極的な参画、後発医薬品使用推進への一層の取り組みが求められたわけですが、この改定によって、業界内でも、調剤薬局で勝ち残るための条件をもつ企業ともたない企業との差がはっきりと出てきたように感じています。
田尻
そうですね。特に、これまで大きな病院の前に薬局を作って処方せんをかき集めて…というスタイルが主流だった薬局業界に対して、特定の病院からの処方せんを待っているだけの薬局に対する調剤基本料が大きく減額されたことは、確かに大きなインパクトとなりました。しかし、真に求められているのは、薬局が地域の中で医療機関としての役割を担っていくことであって、病院前から離れ、地域の中へ出ていくこと。そういう意味で大臣は、「病院前の景色を変える」とおっしゃっているのだと思います。
繁村氏
御社は、改定よりもずっと前から、「地域薬局」として地域に根ざすことに重きをおいていましたね。
田尻
はい。当社の副社長で調剤薬局事業の責任者でもある秋野は、地域の中で必要とされる薬局づくりや、看取りも含めた在宅への取り組みに力を注いできました。そして、介護分野や社会保障全般にも視野を広げながら、薬局の役割とは何かを考え続けてきた結果が、今、厚生労働省から打ち出されている「かかりつけ薬局」の姿と一致していたんです。そういうこともあって、改定で大きな収益減となった会社もあるなか、当社は落ち着いて受け止め、収益改善を図ることができたのではと思います。
繁村氏
なるほど。私も御社の理念は、今でいう地域包括ケアシステム、これからでいう地域医療構想にあてはめて考えると理解しやすいと思っていました。方向性が合致したわけですね。
御社の姿は、薬局の在り方や将来像を示していると思うんです。薬局業界の中には、アインファーマシーズさんのような大型門前薬局を中心に進める会社がある一方で、スギ薬局さんのような全店で調剤を併設しているドラッグストアなどもありますが、その間に立つのがメディカルシステムネットワークではないでしょうか。御社は調剤薬局の枠にとらわれず、複合型施設を中心とした医療圏を創造する、まさに地域包括ケアシステムを体現するような「まちづくり」を行う会社。もちろん複合型施設は1年に10軒・20軒とできるものではありませんが、これは社会的にも求められているものです。時間はかかるけれど、モデルケースを示しながら、大都市圏や地方都市でも発展していけるのではと思っています。
田尻
当社には、北海道の新ひだか町に、地方都市型の医療ヴィレッジをつくった実績があります。地方都市には地方都市型の、また都会は都会型のモールのパターンをつくって示せれば、一緒に開発を行う企業や同じ取り組みをする企業がでてきて、面白くなるのではないかと考えています。ただ、最近建築費が高止まりしていますので、採算性を十分に検討しながら進めていきたいと考えています。
繁村氏
複合型施設は、人口動態が変化する中での地域インフラの役割を示すという点で御社の価値になっていくでしょうから、私も継続して注目したいと思います。
改定で受けたインパクトについて言えば、2012年の改定時にもありましたよね。医薬品の仕入価格が硬直化して、薬局の収益性が悪化しました。でも私は、あれを経て、薬局側に体力がついたと見ているんです。薬価交渉で薬価差益を取りにいった会社と、薬価差益ではない部分で利益を出した会社が出て、収益力を試されたといえます。
田尻
そうですね。
繁村氏
実際、ヨーロッパの投資家は、日本の調剤薬局業界の変化に対する関心が非常に高くて、ずばり「生き残る会社はどこか」と聞いてきます。そういう時、私は独自性をもった会社の事業パターンをいくつか提示するようにしていますが、大きな将来の展望図を描くと、とても興味を示すんですよ。意外なほど、長いスパンで企業の将来性をみているようです。薬価差に頼らない、独自性のある事業を展開する企業が、今後は生き残るのでしょうね。そういう意味では、御社が医療と介護の複合型施設の建設を通して「まちづくり」を行っているのは、強みといえると思います。
第4次中期経営計画 スタート
田尻

第3次中期経営計画では、新規の開発が進まなかったことが一番の反省点でした。その分をM&Aでカバーしてきました。また、改定の影響を受けた分と合わせて、売上高目標の750億円は達成したものの、それ以外の目標は未達成という結果に終わりましたが、課題であった関西・東海エリアの収益改善が順調に進み、営業利益・経常利益の両方で過去最高益を更新できたことは非常によかったのではないかと思っています。結果を真摯に受け止めて、開発には今まで以上に注力していきたいですね。

繁村氏
医薬品等ネットワーク事業については、2015年1月に芙蓉総合リース株式会社と、4月に株式会社イーエムシステムズとの提携をしましたね。実際、成果のほどはいかがですか?
田尻
芙蓉総合リースとの提携でスタートした“立替払いサービス”は、加盟する企業の約半数にご利用していただいていて、加盟店獲得のために効果的なサービスになっています。イーエムシステムズとの提携については、これまで加盟店にのみ提供していたデッドストックエクスチェンジ(不動在庫消化サービス)をイーエムシステムズのレセプトコンピュータユーザー16,000店に紹介し、ご希望があれば利用していただくというものですが、ここから当社の医薬品ネットワーク加盟に繋げていければ、かなり加盟店獲得に寄与するものと期待しています。
繁村氏
イーエムシステムズのユーザー向けデッドストックエクスチェンジは、現行の加盟店で運用しているネットワークシステムを使用するのですか?
田尻
基本は現行のシステムを使用しますが、利用店舗の増加が予想されるので、それに対応した機能強化の準備を進めています。
繁村氏
拡大の可能性は高そうですね。
田尻
はい。第4次中期経営計画では2,200件を目標に掲げていますが、環境的には非常によいと思っています。H&Mで進めてきた卸会社との医薬品の納入価格形成の条件づくりも成果が出始めましたし、加盟のメリットを確保できる条件は整っています。当社のネットワークサービスを、うまく薬局の経営に活用してくれる会社が増えたらと思います。
繁村氏
M&Aについての業界の動きは、いかがですか?
田尻
中小薬局は薬剤師の採用難と後継者不在という大きな課題を抱えています。加えて、今後、後発品の使用率が上がると医薬品卸の業績はより厳しくなりますから、そのしわ寄せを受ける形で中小薬局の仕入価格は上昇することになると思います。恐らく今後10年程度で業界再編が進んでいくのではないでしょうか。恐らく、この中期経営計画3年間の間でも相当にM&Aは進むと思います。
繁村氏
ちなみに第4次中期経営計画の数値目標については、3年連続改定を考慮しましたか?
田尻
はい。来年4月の改定は、前回の改定時とほぼ同等の損益インパクトがあるだろうと見込んでいます。消費税増税分については、昨年の8%への増税の際にも薬価に3%分上乗せ反映されましたので、影響はありませんでした。2016年4月に予定されている増税に関しても影響はないものとみています。薬価差益については、前回妥結した価格をベースに試算していますが、ここのところの卸との交渉状況から見ると、まず妥当なところではないかと思います。
繁村氏
御社は6・7月に増資を行い、財務体質の改善にも取り組みましたね。
田尻
今後の業界再編の中で持続的な成長を行うためには企業体力を高めておくことが重要で、やはり借入金と自己資本については、改善が必要でした。あとは、今期の収益をきちんと確保して、株主の皆さんに安心してもらえるようにしなくてはと考えています。
繁村氏
そうですね、財務体質の強化と、業績の拡大を両立することで、医療人としての社会への貢献と株主の期待に応えることが重要ですね。
では、中計の売上は見えたという感じでしょうか。利益についてはいかがですか。最終年度で経常利益率は約3.6%と、平成27年3月期実績に対し0.3%ポイントの上昇と控えめな計画になっているようにも見えますが。
田尻
利益率の高い医薬品等ネットワーク事業を思い切って伸長させること、調剤事業については、国が求めるかかりつけ薬局の機能を先取りして事業展開していくことに加えてM&Aを中心にドミナントを形成し効率化を進めていくことで、利益率の上昇を図っていきたいと思います。
今後の業界の変化について
繁村氏
「かかりつけ薬局」について、これまで明確な定義はされてきませんでしたが、地域包括ケアシステムの中で求められる機能から考えて、だいぶ方向性が定まってきましたね。
田尻

かかりつけ薬局が今後どのように進んでいくかは、よく社内でも話します。欧米でいうところのホームドクター制度は、特定のドクターに診察してもらう制度のこと。日本は患者がどこの病院に行ってもよく、フリーアクセスです。しかし、本当に「かかりつけをつくろう」となったら、日本でも自分がどの病院にかかるのかを決めるところまでやらないとできないと思います。病気の段階や診療科目によって限定されない、総合的な診療能力を持つ“総合診療医”の育成が必要とされる一方で、薬局にも、未病・予防も含めたあらゆる相談にお応えできる高い知識と経験値を持つ薬剤師とスタッフの育成が求められます。そして重要なのは、病院と薬局が連携する体制をつくれるか。かかりつけ薬剤師の本来の機能を果たすためには、そこまでやらなくてはならないのではないか。そう話しています。その中で、残薬の管理や受取前の重複投薬などのチェック機能も薬剤師の役割として明確にしていかなくてはなりません。

繁村氏
そうですね、診察を受ける医療機関についてアクセス制限すれば、かかりつけを実現できるかもしれませんね。ただし、フリーアクセスに制限をかけるというのは国民皆保険制度の在り方を考えるとなかなか容易ではないです。さはさりながら、国民皆保険制度がスタートした1961年と2015年では、人口動態も社会事情も異なるわけで、患者と医療の流れをスムーズにするような柔軟な制度設計は必要になってきます。
田尻
一つのアイデアとして、かかりつけ薬局を患者が選べるようにしたらどうでしょう。基本料も患者が選んだかかりつけ薬局にいけば安いけれど、それ以外に行った場合は高い、というように。そうすれば、薬局側も選ばれなくてはならないのでサービスの競争がすすむ。どうすればかかりつけ薬局に選んでもらえるかを、真剣に考えると思うんです。
繁村氏
なるほど。今はサービスの良い薬局は点数も高くなっていますが、その価値あるサービスの部分は患者の負担ではなく、行政(保険)から出るようにするとよいかもしれませんね。
田尻
次の改定で、そこまで踏み込んでいくかどうかは分かりませんが、従来型の調剤報酬の点数配分による誘導には限界があるように感じます。
繁村氏
今後予想される業界の変化については、どうお考えですか?
田尻
医療費の増加を如何に抑制するかという点が今後の大きな課題である以上、薬剤師は薬の専門家として患者の薬物療法に関与し、服薬指導や服用後の副作用のチェックに重点を置くべきで、単純なピッキングは機械や調剤助手に任せていく流れになると思います。
繁村氏
一部に医薬分業不要論や薬局バッシングなども見られましたが、これについてはどうお考えですか。
田尻
過去の歴史を振り返れば、医薬品の過剰投与による薬害が大きな社会問題になり、これをきっかけに医薬分業が進められ、並行して政策的に薬価差が縮小されてきた経緯があります。これらの経緯を踏まえないで、単に患者の利便性だけで分業不要だとか院内薬局を認めるべきであるという議論には、正直違和感を感じます。ただ、医薬分業を開始したときの理念であった、「かかりつけ薬局」の機能が提供できていたか、我々は今一度真摯に反省しなければなりません。いずれにせよ、これから本物の薬剤師、薬局が活躍できるステージに入ります。医薬分業の第二幕が始まる、と言っていいのではないかと思います。
繁村氏
期待しています。がんばってください。
田尻
ありがとうございます。がんばります。

繁村 京一郎 (しげむら・きょういちろう)

野村證券株式会社
グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部
医薬ヘルスケアチームヘッド
エグゼクティブ・ディレクター
社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
ヘルスケア業界に精通したアナリストとして、リサーチ活動を幅広く展開。